第21回ゲストトーク 堀潤氏

相手を尊重しながら、新しい何かを開拓する

今回は「77年生まれの僕らが考えるこれからの日本! そして世界との関わり方、繋がり方――10の提言」ということなので、僕から皆さんに10の提案をさせていただきたいと思います。

まず1つ目は、「パソコンの父」と言われるアメリカの計算学者アラン・ケイの格言です。マサチューセッツ工科大学に行くと彼の銅像があるんですが、そこに刻まれているのが「未来を予測する最良の策は自ら作り出すことだ」という言葉。ここに集まってる皆さんは物事を実行されている方たちだと思うので、この意味に心当たりがあるのではないかと思います。

そこで僕からの提案は、「言葉を因数分解すること」です。その言葉がどういうものなのか、細かく分解していく作業のことですが、これをきちんとできているコミュニケーションとできていないコミュニケーションでは、世界に出て行って誰かと話をするときに大きく変わってくるんじゃないかと思うんです。

例えば、「僕ら日本人は……」ということってありますよね。でも、「僕ら」「日本人」というのは誰のことなんでしょうか。具体的に考えて、例えば本当は「1977年に日本という国に生まれて、同じ時代感を共有している僕ら」と言いたいとします。これなら、ある程度具体的になってきますが、先ほどのように省略してしまうと、途端に他の世代や他の立場の人から「なんで『僕ら』なんだ。僕はあなたとは違う考え方かもしれないじゃないか」という意見が飛んできてしまう。つまり、僕らはついつい言葉を大きな括りの中で使ってしまっていて、本来見なきゃいけないものが見えなくなっているんです。

「言葉を扱う」というのは、ある意味複雑なものを単純化するということ。だからこそ、いつでももう一度複雑な内容に戻せるようにする意識を持っておかないと、コミュニケーションにおいて大きなロスや誤解、軋轢が生まれるだけではなく、さらにその先にある問題として紛争や戦争といったものの原因にもなりかねません。このようなことを防ぐためにも、言葉をもう一回分解して提案する力を身につけなければいけないんじゃないかなと思うんです。

ふたつ目は「互いの未知を見つける力」です。さっきと同じコミュニケーション上の問題ですよね。同じ未来や同じゴールを互いに持ち合えるかどうか。これはもう言葉を越えたコミュニケーションだと思います。しかも、こういうものは未知であればあるほど良いと思うんです。「共通のまだ見えないものを、一緒になって開拓していこう」というものですから。そのため、「お互い知らないことだらけなんだから、何か知恵を出し合えないか」という提案を常に頭の隅に置いておく。そうすると、違う国、違う人種、違う宗教、違う支持政党同士でも、わからないことに対して意見を出し合えると思うんです。

自分の力の限界を理解し、それをシェアする

3つ目は「助けを求める力」。「僕はこれができません」ということもちゃんと胸を張ってプレゼンできる、しかも共感を呼べる力というのはものすごく大事だと思うんです。「助けを求める力」というと、つい何か自分で弱いところをさらけ出して、自分の無能さを白日の元にさらす恐怖があるかと思うんですが、実はそうではありません。最近仕事でご一緒するホリエモンさんも、「『俺、できないんだよ、これ』をどれだけ言えるか」をとても大事にしているそう。こう口にすることで、物事に対して腹が据わると言うんですね。これはとても重要な能力だと思います。

4つ目は「私を伝える力」。先ほどの助けを求めようとしたときに、純粋に力をシェアするためにも、「僕ができるものや持ってるものはこれです」「これは持ってません」ということをしっかり伝える。さらに「あなたは持ってますか」「持ってる人がいたら教えてください」ということもお願いする。こういうことが連鎖していけば、大概のことは可能になるんじゃないかという期待が膨らんでいきます。

ひとつ例を挙げてみると、現在ソニーやパナソニックが非常に苦戦しながら一生懸命世界と戦っていますが、そこで良く言われるのが、「日本は良くも悪くも徹底した自前主義だった」ということです。自前ですべてを片づけるので、逆に企業体を弱らせてしまった、と。一方で、GoogleやAppleが元気なのは、シェアする力を持っているからです。「アプリのベースになるものは、皆さんどうぞ使ってください。なぜなら、僕らだけはエンターテイメントからビジネスに至るまですべてのツールを作ることができないからです。そういうことは、アプリ制作が得意なあなたたちがやってください。好きなサービスもやってください」。そうやって、自分ができないことを明確にして市場に対して提示をしたからなんです。そう考えると、いざ何かプロジェクトを立ち上げようというときは、他者が入る隙を作っておくというのが重要なのではないかと思います。

5つ目は「未来を見せる力」です。要は「僕らが描いてる未来はこういうものだよ」「これに向かって、みんな一緒になって力を合わせるんだよ」ということを提示してあげることです。みんなが見たい未来をしっかりと提案する力というのは、やっぱり重要です。でも、これができるというのは人は、きっとまだ限られていると感じます。自分にしっかりとした志があり、自信がある経験を持っていて、裏付けられた知識も備えている。それでいて、自分以外のいろんなグループを良くしていきたいと考えていて、未来をきちんと自分の中に持っている人……。そういう人物が未来を見せられる役割に回れると思うんです。

たくさん夢を持ち、スピーディーに実行する

次は「今を実行する力」です。未来も描けた、どこに何が問題があるのかもわかった。ともなれば、実行する力が必要です。僕の好きな企業家、投資家の1人で、MITメディアラボの日本人所長をやっている伊藤穰一さん、通称Joiさんという方がいます。Joiさんは大企業の経営者を前にして「ベンチャーの経営者の皆さんは、いつもどんな感覚の中にいると思いますか?」という問いかけをするんですが、そのときの答えが面白いんです。「崖から突き落とされて地面に叩きつけられるまでの間に、自分で飛行機を組み立ててそこから脱出する、そういうスピード感」と言うんです。「投資を受けました。お金がドーンと入ってきた。その瞬間から人件費に消える、固定費に消える、開発費用に消える。それまでに成果をあげなければいけない。ようやく成果のかけらが見えてきた。次の投資を受けて、また飛び立つ。……その繰り返しですね。大企業の皆さん、インターネット後の社会は、ひょっとしたら10秒先のことも古いかもしれない。だから、今持っている地図を捨て、手元のコンパスで歩んでください」と。僕は当時NHKにいたんですが、物事が決定するのに時間がかかり、もどかしい思いをしたことがたくさんあったので、そういうスピード感にはすごく憧れがありました。今はフリーランスなので、「取材に行こう」と思ったらその場にPC持ち込んで、編集して、YouTubeにアップして、Yahoo!ニュースで取り上げてもらう、ということができる。やっぱりこういうスピード感は気持ちがいいなと改めて思ったりもします。

7つ目は「違いを愛する力」。例えば、2020年に東京オリンピックとパラリンピックが行われます。ただ、現在の世界情勢を見てみても、オリンピックに比べたらパラリンピックを観に行く人、伝える人の人数ががくんと減るんですよね。しかし、次回の東京オリンピック、パラリンピックでは、おそらくこのようなこれまでの形は一変して、関係がフラットになるだろうと言われています。やっぱり「フラットであること」はすごく大事。その上で、それぞれの違いや魅力をしっかり受け止める力が必要なのではないかと思います。

次は「子どもでいられる力」。皆さんも子どものときにはたくさんの夢があったと思います。でも、大人になると、「ひとつの目標に向かって」とか「自分のあるべき姿は」とか、そういうものを考えはじめてしまう。でも、よく考えてみたら、子どもから大人の境目ってあんまりないんですよね。いつまでたっても青臭い部分は青臭いですし、「僕には何だってできるんだ」「私も何だってできるはず」と思うことは大事なんじゃないかと思うんです。

尊重し合い、意見を出し合える環境を作る

9つ目は「コネ」。今日番組のロケで南海キャンディーズの山ちゃんと一緒だったんですが、実は彼も1977年4月14日生まれなんです。だから「77年会に来てくださいよ」と言ったんですが、「ぜひ行きたいです!」という返事をもらいました。なので、近々彼もこの回に参加することになると思うんですが(笑)、その話の流れで「世界とつながるための提案、何かない?」と尋ねてみたんです。そうしたら「……コネ?」と(笑)。

でも、すごく大事なことですよね、人脈って。そこで、「山ちゃん、今までどうやってここまでのし上がってきたの?」と聞いたら、はっきりと「コネです」と。というのも、最初のオーディションのとき、遠くで自分を見ていたディレクターさんがクスリと笑った瞬間があったそうなんです。そこで、「この人、味方になってくれんのかな?」と思って話をするようになった、と。そうしたら、10年後ぐらい経ってから「番組を立ち上げたから、来いよ」と言ってくれたそうなんです。もちろん、その間にも一緒に飲みに行ったり、遊びに行ったりしていて、その際に一生懸命やる姿だったり、真摯に反省する姿も相手に見せているわけです。そういうことを相手と共有することによって、それがいわゆるコネクションにつながっていったんだ、と。

山ちゃん曰く「芸人の中には、そういう『誰かと飲みに行く』みたいなことを嫌う先輩がけっこういるんですけど、あいつらいつか死にますよ」と。確かに納得できますよね。

さて、最後なんですが、世界の人たちと結びつく上で最も大切なのは、「憎しみの連鎖を止める術を考えること」に尽きると思うんです。これはどんな分野でもそうでしょう。自分がいるその場所で、どういう力を振り絞るのか。ただそれを考えるだけでいいと思うんです。自分の家族や友達の話でもそうですし、さらに広がっていく先には世界の平和というものも大きく関わっている。そういう意識の中で、それぞれの業界で身の回りの人たちが互いに尊重しあって、互いにリスペクトし合って、互いに良い案を出し合えるような環境、関係を築いていけばいいんです。

近年「国連が機能していない」と言われています。この間も、核排泄についての国連総会の決議が行われたんですが、日本は「排泄すべき」という案に賛成しました。その他にも130カ国あまりの新興国も賛成しました。ところが、安保理の加盟国と言われている超大国はほぼ口を揃えて否決するわけなんです。各国の思惑が合致せず、国際関係がいびつなままというのでは何も変わらない。そういうこじれやよじれのようなものをどう改善していくべきなのか。それは同じ志を持って、同じことに気がついたみんなが知恵を出し合うしかないと僕は思います。今日ここで集った皆さんとも、この先も一緒に知恵を出し合い、もっと世の中が良くなっていけばいいんじゃないかなと思っています。ということで、皆さん、これからもよろしくお願いします。

松嶋啓介

松嶋啓介's EYE

国家間の憎しみをはじめ、社会の問題はたくさんあります。「今までこんなニュースはなかったよ」ということもたくさんあって、そういう事件を見てるだけで心痛めたりもします。このような問題を解決する糸口は、やはり相手の国を知ることしかない。「では、知るのに一番早い方法は何か」と言ったら、やはりその国の文化と触れ合うことだろうと僕は思うんです。

たまたま僕ができるのは食に関する仕事なので、最近は料理で何かできないかとずっと考えているんですが、例えば、世界中の人たちがひとつのテーブルで、同じ料理を食べることができたらすごいですよね。でも、どんな料理でも肉も魚を使うわけですから、なかなか誰もが食べられる料理にはできません。実際、国連の人と話をしたところ、「仕事の中で食事の用意が一番大変」と言うんですよね。でも、その話を聞いたときフッとひらめいたのが、「日本には世界のどんな人でも食べられて、同時にどんな人でもテーブルを囲ませることができる料理がある」ということでした。肉も魚も使わない、精進料理です。

どの国境を越えても、どの国を人種を越えても、どの宗教を越えても、77年生まれの中田英寿の野菜嫌いだけはどうしようもできませんが(笑)、彼以外の人だったら、精進料理はどんな人でも同席して一緒に食事ができる唯一の手段になるのではないかと思っています。

いろんな国の問題があるけど、日本にはそういったすごいソリューションがある。そういうことをもっと意識して、2020年に向けて少しずつプロジェクトをやっていこうと思っています。あと少しでちょっと一歩進んだ精進料理のメニューができあがるので、そうしたら77年会の皆さんに実験台になってもらえたら、と。そのときは、どうかよろしくお願いします(笑)。

堀潤(ほり・じゅん)(市民ニュースサイト「8bitNews」代表、ジャーナリスト)

1977年兵庫県生まれ。元NHKアナウンサー。立教大学文学部ドイツ文学科卒業後、2001年にNHKに入局。「ニュースウオッチ9」「Bizスポ」などの報道番組を担当。’13年4月1日付でNHKを退局。現在は、市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、パブリック・アクセスの実現、オープンジャーナリズムの実践を目指している。主な著書に『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』(角川書店)、『原発の是非を問うことと、わたしたちがやるべきこと 』(クレヨンハウス)などがある。また、’14年に公開されたドキュメンタリー映画「変身-Metamorphosis」(TOブックス)では、監督、脚本、撮影、編集、ナレーションと5役を務めた。

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