第20回ゲストトーク 遠山 正道氏

オリジナルでいるための、四行詩という基準

私の会社には、新しいプロジェクトを始めるときに照らし合わせる「四行詩」というものがあります。

ひとつは「必然性」。私はSoup Stock Tokyoをはじめ、ネクタイをとりあつかうブランドgiraffeやセレクトリサイクルショップのPASS THE BATONなどやっているんですが、ビジネスって全然うまくいかないんですよね(笑)。そういうときに必ず決まって出るのが、「何でこれをやっているんだっけ?」という話です。その答えとして「儲かるから」というのはダメ。仕事に行き詰まって儲からなくなったら、それでおしまいですから。でも、個人の想いに帰属するような強い必然性があると、仮に仕事がうまくいかなくなっても、一度そこに立ち戻って仕切り直すことができるんです。

ふたつ目は「意義」。仕事はひとりではできないので、やはり周りの人を巻き込んでいかなければいけない。そのときに重要になるのが、世の中においてどんな意義があるかです。3つ目の「やりたいということ」は、まさに「何をやるか」。その人にとって必然性があったり、世の中の意義があったりしても、それだけじゃダメ。提示するものが新しかったり、ユニークさがあったり、「そこで何をやりたいのか」がなくてはいけません。そういう3つの基準をクリアして生まれてきたプロジェクトというのは、4つ目の「なかったという価値」ところに着地することができるんです。

例えば、Soup Stock Tokyo をやろうと思ったとき、3か月かけて物語仕立ての企画書を作って提案をしたんですけど、そのあとに雑誌でニューヨークの行列ができるスープ屋さんの存在を知ったんです。あのとき自分がビジネスを思い描く前に雑誌を見ていたら、もしかしたら「儲かりそうだからコレをやろう」と思っていたかもしれない。そう考えると、順番が逆じゃなくて良かったなと今でも思います。仮にそうなっていたら、今のように社員やアルバイトたちが「自分たちだけのオリジナルの仕事をやっている」というプライドを持てなかったと思うんです。そういう意味でも、この4つは私が仕事をする上での大切なジャッジになっています。

合理的ではないものに、本当の価値がある

さて、実は私は三菱商事にいたとき、「このまま定年を迎える人生は満足できないから、何かをやらなきゃいけない」と思っていたんです。そんなとき、ある知人のクリエイターと一緒にお酒を飲んでいて、「絵を描くのが好きなんで、いつか個展をやりたいんです」という話をしたんです。そうしたら、「すぐやれ!」と(笑)。そのとき32歳だったので「35歳だとおっさんが暴れているようで嫌だから、34歳までには……」と言ったんですが、「年齢は四捨五入ではなくて、三捨四入だ」と言われて、翌年の33歳になるまでにはやらないといけなくなってしまった。でも、とりあえず1年後のギャラリーをおさえてしまって、残った時間で70点の作品を描いて、本当に個展をやってしまったんです。

そのときのことを「何でやったんですか?」とよく言われるんですが、説明が全然できないんです。リスクはあるし、お金にもならないし、シラフで考えたらまったく合理的な話ではない。それでもあえて挑戦したのは、「志があったから」だと思うんです。実際、そのときに芽生えた想いみたいなものは、今日に至るまでずっと僕の中で続いています。

例えば、20世紀は経済の時代と言われていましたが、私は21世紀は文化の時代だと思っています。20世紀は需要が多い割に供給側が少なくて作れば売れる状態だったけど、現在は供給すらも溢れ出ている状態ですから。そう考えると、これからはそこに秘められた想いや価値、文化みたいな合理的な部分では片づけられないものが人の興味の対象になっていくんじゃないかと思うんです。

人の興味というのは、食も大事だし、洋服だって好きだし、本も読むし、映画だって観るし、恋愛だって熱中したいし……というように様々なところに存在します。そういう興味を、マーケティングでどこかから持ってきた話ではなくて、自分にとっての必然性の中で考えてみる。そうすることが、これからの社会の価値や文化にとってはとても自然なことだと思う。そう考えると、もう無限にあるんですよ、やりたいことが。楽しいですよね、世の中って(笑)。

遠山正道(とおやま・まさみち)(株式会社スマイルズ代表取締役社長)

1985年慶應義塾大学商学部卒業後、三菱商事株式会社に入社。’97年日本ケンタッキーフライドチキン株式会社への出向を経て、’99年に「Soup Stock Tokyo」第1号店をオープン。’00年、三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立。代表取締役社長に就任する。現在「Soup Stock Tokyo」のほかネクタイ専門店「giraffe」、リサイクルショップ「PASS THE BATON」など業種の異なる事業を展開。2014年には「スマイルズ生活価値拡充研究所」を創立。主な著書に『やりたいことをやるというビジネスモデル』(弘文堂)などがある。

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