第8回ゲストトーク 猪子寿之氏

日本の歴史から、無自覚に新たに生まれていく文化

「こういうの見せちゃうと仕事があんまり来ないんですけど…」
と言いながらプロジェクターに映し出したのはチームラボが手がけたアート作品。まずは台湾国立美術館でのチームラボ展。
暗闇の中に無数に浮かび上がる小人達。それぞれが踊ったり、笛を吹いたり、太鼓を叩いたり・・・。この小人を写し出しているのは数百台のスマートフォン。1台のスマートフォンが1つのキャラクターとなり、知覚(カメラ、マイク)、知能(コンピューター、ソフトウェア)、表現(ディスプレイ)、コミュニケーション(通信)を持ち、互いに連携を取りながら、外部(人の動き)に対して反応していく。
つまり観る人が動くとそれに反応して小人が笛を吹き、それに反応した別の小人が踊り、それを受けた別の小人は太鼓を叩く。


(↑台湾国立美術館での展示)

昔の日本の音楽はインターネット的

「二度と同じ音楽は出来ません。もともと日本の音楽って西洋とは違い指揮者が居ない作りになってるんです。これって、インターネットと近いですよ。」
「モチーフは阿波踊りなんですか?」(松嶋シェフ)
「まさにそうです。僕、実は阿波踊りの連も持ってます。阿波踊りをみるとわかるんですが、法や秩序が無くても見事に、素晴らしく調和がとれてる。秩序が無くても、ピースは成り立つんですよね。

そしてもう一つの作品は、紫舟+チームラボの作品。
壁に向き合うと、上からさらさらと書が降ってくる。例えば降ってきた「鳥という文字」が、観ている人の影に触れると、瞬く間に「鳥の映像」に変わり、その鳥が木にとまったり、火という文字から生まれた「火の映像」を避けて飛んだり・・と、ストーリーがどんどん生まれ、広がっていく。こちらも、二度と同じ風景は表れない。

日本人が無意識に受け継いでいる文化が、日本人の強みになる

「昔の日本人は、今とは違った風に世界を捉えていて、結果、今とは違った風に世界が見えていたんじゃないか?という思いがあります。
日本画について、日本には西洋の遠近法(パースペクティブ)がなかったので平面的に描いていたのではないか、といわれます。
しかし、当時の人々は日本画のように世界が見えていたから、そのとおりに描いたのではないだろうか?
つまり、西洋のパースペクティブとは違う論理が発達した空間認識を持っていて、空間を論理的に平面化して描いていたのが日本画だったのではないだろうか?と、考えています。
昔の日本人は、日本画を見て空間だと感じていたのではないか、と。

そして、この日本の空間認識を、僕らは、『超主観空間』と名付けています。

昔の日本人は空間をレイヤーで捉えていた

この空間認識をコンピューターで、3次元空間が日本画に見えるような論理構造で再現し、平面化することで作ったアニメーション作品が『超主観空間』のシリーズです。この作品をみた多くの人が「レイヤーで出来ている」と認識した事に最初は驚いたのですが、良くみてみると、本当にレイヤーで作られているように見える。
つまり、昔の日本人は,空間をレイヤーとして見ていたからこそ、逆に、人が空間をデザインするときは、レイヤーとしてデザインしたのではないかと考えています。

マリオもドラクエも日本だから自然に生まれた

スーパーマリオブラザーズというゲームを僕は大好きなんですが、世界で初めて(西洋的な空間認識では)完全にフラットな平面による横スクロールという概念を生んだゲームで、世界中で大ヒットしています。2Dのころのスーパーマリオのシリーズは、完全なレイヤー式の背景で空間を表現しています。

また、西洋のパースペクティブは、描き手の視点を原点として,扇状に広がる空間が描かれていますが、日本画は、絵の中に描き手がいるという独特の視点。
画面を客観的にみているのに、実際に自分が画面の中、つまり空間の中に居るつもりで、画面の中の主人公を動かせるドラクエのようなゲームもまた、日本人の無意識に受け継いだ空間認識から生まれたものではないでしょうか。

先人たちが永年構築していった日本の空間表現を、現代の日本人も無意識に受け継いでいて、その日本の空間表現が、インタラクティブなコンテンツであるゲームの空間表現に、非常に相性が良かったのではないだろうかと思うのです。

情報社会は、言語化・論理化できる領域は、共有スピードが速すぎて、差異が生まれにくくなっていきます。
言語や論理では再現するのには不十分な領域、つまり、文化依存度の高い領域――例えば『カッコイイ、カワイイ、キモチイイ、オモロイ』というような領域は、創る方法論が、共有されにくい。
そういう領域にのみ、優位性が生まれていくんだと思います。

文化は、長い歴史の中で、非言語に、そして、無自覚に、連続しながら、新たなものを生んでいきます。
連続した中で生まれる文化依存度の高い領域を、テクノロジーで構築したようなもの、テクノロジーで革新されたもの、そのようなものが、産業となっていくのではないでしょうか。

日本人が無意識に受け継いでいる文化による思考や空間認識は、デジタル領域ととても相性が良い。
それが世界に出ていくうえで、日本人の強みになると思います。

松嶋啓介

松嶋啓介's EYE

今、お話を聞いていて、これから先、デジタルが一つの文化を創るコミュニティになるのでは、と強く感じました。
音楽にしても、芸術にしても、スポーツにしても、食にしても…… いろんな形の文化がありますが、文化を通して人と人とが繋がるコミュニティがある事自体が、文化なのかなって思います。

僕はデジタルもSNSもまた一つの新しい文化だと思います。
デジタルを通したコミュニケーションは、今はまだ少し軽視されがちなところはありますが、デジタルと言う手段で人が繋がるきっかけが生まれています。 この77年会も、メールとFBから生まれた会です。人と人とがつながること、コミュニティを生めること、これは新しい文化の形態だと認識して良いのではないでしょうか。

僕にとって文化人であると言う事は、それは知識を大量にインプットをしているだけでなく、人との関わりを大切にする事も必要だと思っています。

僕らはもっと未来を考えないといけません。 未来を創っていくという事は、人が人をどうサポートし、繋がっていくかって事なんじゃないかと思います。
文化を創ろう、そして文化を伝えよう!

猪子寿之(いのこ・としゆき)(チームラボ代表)

ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表。1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。

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